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課題「交流高電圧を活用した非加熱殺菌技術の開発」技術研究報告 平成14年3月28日

1.緒言
近年,高電圧パルス,光パルス,ソフトエレクトロン等,非加熱殺菌方式が注目されており,その理由として,生あん,野菜等加熱できない食品の殺菌として,また味,香り,色,あるいはビタミン類の含有成分変質防止等が挙げられる.さらに消費者の健康志向から無添加食品を望む声が大きくなっており,食品製造・加工業者は従来の殺菌方法に変わる安全で新たな殺菌方法が必要となっている.ソフトエレクトロン1)は食品表面に低エネルギーの電子を当てることにより殺菌し,高電圧パルス2)は微生物懸濁液に瞬間的に大きな電流を流し殺菌する方法で,一部実用化されているものもあるが,騒音,高価等の問題を抱えている.我々は,交流高電圧(50/60Hz,max10000V)を用いた電気的作用としての微粒子化,分散,イオン風について基礎的段階であるが実験的検討を続けており,同じ電圧(V)であっても,電極間距離(m)を小さく,すなわち電界強度(V/m)を高め,処理物に電気力線を集中させることが必要であると考えており,谷野ら3)もキュウリつる割れ病菌を供試菌として電極近傍の電界の強い領域に懸濁液を通過させ,電界を効率的に曝露することで生存率を低下できると報告している.本事業では実用化の調査研究として,通電せず非加熱で省エネルギーな殺菌技術の開発を目的とし,食品表面殺菌モデルとして寒天表面にカビ胞子を植菌したもの,溶液中殺菌モデルとして精製水に酵母を懸濁させたものを用いて,交流高電圧を印加(電界処理)し,その可能性について検討したので報告する.

2.実験方法
2-1.供試菌株
 財団法人発酵研究所より入手した黒カビ(Aspergillus niger IFO 6341)と,パン酵母(Saccharomyces cerevisiae IFO 2044)を用いた.

2-2.培養条件および菌液調整
1)黒カビ
 ポテトデキストロース寒天斜面培地(日水製薬,以下PDA培地)で,26℃・3〜20日間培養し,胞子5白金耳を0.005%スルホこはく酸ジ-2-エチルヘキシルナトリウム10mlに懸濁し,激しく撹拌後3時間以内に使用した(以下胞子懸濁液).Thomaの血球計算盤測定から胞子濃度は(2〜4)×105/mlであった.
2)パン酵母
 保存菌をYM液体培地(グルコース1.0%,ペプトン0.5%,酵母エキス0.3%,マルトエキス0.3%,pH6.0)で26℃・48〜120時間静置培養後,遠心分離機により3500rpm・10min集菌し精製水で3回洗浄後,同量の精製水に懸濁し,6時間以内に使用した(以下酵母懸濁液).予備実験より培養開始から48〜120時間は定常期である事を確認し,生菌数は(4〜6)×107/mlであった.

2-2.実験装置および殺菌試験
1)黒カビ
 実験装置の概略を図1に示した.
交流100V電源(60Hz)からスライダックを介して高電圧トランスで昇圧し,1線を高電圧側とし,他線は鉄板およびアースに接続した.2次側電圧は,大地間電圧として高電圧デジタル電圧計(菊水電子工業,149-10A)で測定し3000V,5000V,7000Vにスライダックで調整した.二次側電流は鉄板-アース間に1kΩの抵抗を挿入し,抵抗両端の電圧をデジタルマルチメーター(横河インスツルメンタル,7544-01)で測定し算出した.消費電力は携帯用電力計(横河M&C,2041)で測定した.
イラスト-黒かび1
1 実験装置1(黒カビ)

(1)交流100V電源 (2)スライダック(3)高電圧トランス (4)電界処理部(5)ステンレス線
(6)鉄板(70×70mm)(7)アース


また,シャーレ側面最下部からステンレス線(0.46mmφ)を差込み固定し,シャーレにPDA培地を注ぎ固化後,胞子懸濁液0.05mlを培地中央に滴下乾燥させ,電界処理に供した.シャーレは内径φ85mm,φ53mm,φ35mmの3種を用い,それぞれに対し培地表面−鉄板間距離d=4.9mm,8.1mm,11.2mmとなるよう培地量を調整した.(φ35mmシャーレは寸法上d=4.9mm,8.1mmの2パターンとした.)
以上,二次側電圧,シャーレ内径,dを変数とし,電界処理しながら培養(26℃)し,培養開始から1,2,3日後に写真撮影により菌糸伸長を観察した.次いで,培養3日目に全く菌糸伸長が見られなかった条件に対し,電界処理時間を短縮していき,培養3日目に全く菌糸伸長が見られなかった処理時間を測定した.

2)パン酵母
 実験装置電源部は図1と同様とし,電界処理部のみを変更し概略を図2に示した.
スライドガラス上にステンレステープ(0.02mm厚)を貼り付け電極とし,アース側は平板,高電圧側は先端約60°に切断した.両電極間(1mm)に酵母懸濁液を滴下し顕微鏡上で電界処理しながら観察した.その場合、二次側電圧25Vでパールチェーンが観察され,100V(0.1mA)で図3のように、電気分解に起因すると思われる発泡が著しく,激しい対流が発生した為,酵母変形観察は困難であった.

イラスト-黒かび2
2 実験装置2(パン酵母)

(1)アース (2)高電圧側(3)ステンレステープ(4)酵母懸濁液
写真-黒かび1
3 酵母懸濁液100V(0.1mA)

イラスト-黒かび3
図4 実験装置3(パン酵母)

 (1)高電圧側 (2)アース (3)注射針   (4)ペリスタポンプ (5)生理食塩水 (6)酵母懸濁液

 懸濁液中に両電極を挿入した場合,発泡,通電による発熱が危惧される為,またスケールアップを考慮して,両電極を挿入しない装置で行ない,概略を図4に示した.電源部は図1と同様とし,ガラスビーカーに10-2希釈酵母懸濁液100ml((4〜6)×105/ml)をとり,水面上5mmに注射針(25G×23/8R.B.)を設置しペリスタポンプにて5ml/minで循環させた.ビーカー廻りに生理食塩水を浸しアース電極とし,注射針に高電圧側を接続し,二次側電圧3000,6000,9000Vを印加した.電圧開始から経過時間0,20,40,60,120minに,懸濁液をマグネティックスターラーで撹拌(15sec)し,0.1mlを採取した.各採取液を10-2に希釈し、YM寒天培地(YM液体培地に寒天1.5%を添加)2枚に混釈し,26℃・36〜48h培養後,2枚のコロニー平均数を計測した.各経過時間におけるコロニー数を経過時間0minにおけるコロニー数で除し生存率を求めた.

3.実験結果
3-1.黒カビに対する殺菌効果
 表1に結果を示した.×および2重取消線は培養3日後に少しでも菌糸の伸長がみられ,殺菌できなかった条件であり,取消線の無い時間が各条件における殺菌に要する電界処理時間である.二次側電圧3000Vでは,いずれの条件でも殺菌されず,5000Vでφ35(d=4.9mm)の場合10hでは殺菌されなかったが,14h電界処理により菌糸の伸長が全くみられず殺菌できた.7000Vの殺菌に要する時間は,φ85(d=4.9mm)の場合6h必要だが,φ35(d=4.9mm)の場合20minで 殺菌できた.すなわち電界強度(二次側電圧/電極間距離=V/mm)大なるほど,またシャーレ面積が小なるほど短時間で殺菌できることが確認された.

シャーレ径

φ(mm)

寒天表面-アース電極間距離d(mm)

二次側電圧(V)

3000

5000

7000

85

11.2

×

×

×

8.1

×

×

×

4.9

×

×

4h 6h

53

11.2

×

×

×

8.1

×

×

18h 24h

4.9

×

×

40min 60min

35

8.1

×

×

2h 3h

4.9

×

10h 14h

10min 20min















1 シャーレ径,dおよび二次側電圧と黒カビ完全殺菌処理時間

5に一例として,φ35(d=4.9mm)における7000V電界処理を示した.図5 (a)は電界処理無し(0min),(b)は電界処理10min,(c)は電界処理20min,それぞれ培養22h後の顕微鏡写真である.(a)0minはほぼ全ての胞子から菌糸が伸長しているが,(b)10minでは菌糸伸長胞子は一部となり,(c)20minでは全ての胞子において菌糸伸長は全くみられなかった.
なお消費電力は,各条件において二次側電流値が0.1mA以下であったので,シャーレ径,dに関わらず,ほぼ二次側電圧のみに依存し,3000Vで1W以下,5000Vで2.5W,7000Vで4.5Wであった.

写真-黒かび胞子1(a) 7000V(0min)
写真-黒かび胞子2(b) 7000V(10min)
写真-黒かび胞子3(c) 7000V(20min)


5 寒天表面黒カビ胞子への電界処理時間の影響

3-2.酵母に対する殺菌効果

6に結果を示した.対照区(0V)ではほぼ横這いとなり,120min循環させても生存率に変化はなかった.電界処理時間60minのそれぞれの生存率は,3000V印加時で52.6%,6000Vで15.7%,9000Vで0.4%であり,処理時間および印加電圧の増大に伴い生存率が減少した.なお消費電力は6000Vで4.5W,9000Vで12〜13Wであった.
グラフ-酵母生存率6 印加電圧による酵母生存率

 また,図7(a)に電界処理前,(b)に電界処理9000V(40min)の電子顕微鏡写真を示した.

電界処理された酵母は20〜120min処理全てにおいて,明らかに外観に損傷がみられたが,その割合は全体の2〜4割程度であった.

写真-酵母1(a) 電界処理前
写真-酵母2(b) 電界処理9000V(40min)


7 酵母懸濁液への電界処理の影響

4.考察
 黒カビに電界処理し,完全殺菌できることが確認できた.しかしながら,同じ電界強度であっても被殺菌対象物の形状が異なれば,何ら対照区と変わらず殺菌不可能であった.

電界処理装置構造,臭い,またシャーレ内にインジゴ溶液浸透濾紙を挿入し電界処理したところ脱色が確認されたので,殺菌主要因はオゾンと考えられる.オゾン殺菌の場合,安全性,性質を考慮し,最大の効果を発揮できるように条件を調整し,最小のオゾン濃度で最大の効果をあげることが必要であるといわれている4).本事業における電界処理方法は,通常のオゾン発生器で発生させたオゾンを送風し対象物に曝露させるのではなく,局所的に高濃度オゾンを対象物上で発生させるのに適した方法と考えられる.実用化に向けて、漏洩オゾン処理,食品および容器のオゾン耐性,電気的安全性があげられるが,糸状菌のオゾン抵抗力は比較的強いため5),対象微生物によってはより短時間,低電圧で殺菌できると考えられる.さらに,放電場における殺菌についてOHラジカルが関与している可能性も高いため6〜8),オゾンと電界処理部放電との相乗効果も考えられる.今後オゾン濃度,二次側電流測定,またアルゴンガス中での電界処理によるオゾンレス殺菌について検討することにより,殺菌要因を明確にできると考える.
 電界による細胞操作は,一般に電極反応を起こしにくい高周波電界が用いられており9),商用周波数(60Hz)では懸濁液中の酵母が電極に引かれ,接触反発することが観測できたが,発泡,対流が発生するために変形を測定することは困難であった.本事業では,安価,小型化を前提とし商用周波数を使用するため,両極を懸濁液外として電界処理した結果,非加熱で省エネルギーな殺菌が可能であった.水面上電界処理により放電させた場合,空気中窒素酸化,水中への溶解によりpH低下が報告されている10)が,殺菌についてはpH低下よりも放電で発生したラジカルの寄与が80%以上としている11).本事業では交流高電圧(60Hz)を用いたため正弦波電圧となり,水面への放電により極短時間のパルス波が重畳した形となっており、例え懸濁液と高電圧電極(注射針)が放電により短絡したとしても、,懸濁液はアース電極(生理食塩水)とガラスで絶縁されているため通電発熱しない.今後,黒カビと同様に懸濁液の変質を考慮して,電気的特性を検討することにより,実用化できると考える.


5.要約
交流高電圧(60Hz)電界処理による非加熱殺菌について検討した.
(1)寒天表面上の黒カビ胞子は,電界強度が大きいほど,また寒天表面積が小さいほど短時間,低電界強度で殺菌可能であり,殺菌主要因はオゾンと示唆された.
(2)酵母懸濁液を循環しながら電界処理することにより,通電せず非加熱で殺菌可能であり,印加電圧が大きいほど,殺菌に要する処理時間が短縮され,電子顕微鏡観察から酵母外観の変形が確認された.(3)寒天,懸濁液の両方とも,通電していないため消費電力は,ほぼ二次側電力に依存し,最大9000Vで12〜13Wとなり,省エネルギーで非加熱な殺菌方法となり得る.

6.文献
1)林 徹,等々力節子:食科工,46,422-427(1999)
2)佐藤正之:防菌防黴,27,231-239(1999)
3)谷野 章,山田龍太郎,富士原和宏,飯本光雄,田川彰男:農業機械学会誌,62,117-119(2000)
4)内藤茂三:食品のオゾン処理・殺菌,「生物・環境産業のための非熱プロセス事典」,第1版,岩元睦夫編,(サイエンスフォーラム,東京),521-534(1997)
5)内藤茂三:日食工誌,38,360-367(1991)
6)R.Morar,R.Munteanu,E.Simion,I.Munteanu,L.Dascalescu:IEEE Trans.Ind.Applicat,35,208-212(1999)
7)谷村泰宏,廣辻淳二,山吉孝雄:防菌防黴,27,713-722(1999)
8)筒井真司:第24回静電気学会論文集,p47,山形(2000)
9)鷲津正夫:電界による細胞の操作,「新版静電気ハンドブック」,第1版,静電気学会編,(オーム社,東京),850-853(1998)
10)青木幸生:第24回静電気学会論文集,p5,山形(2000)11)村尾 繁,宮元くるみ,服部隆一:静電気学会誌,16,142-145(1992)

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